40代「オトナ世代」の予期せぬ妊娠と中絶

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赤松 敬之(あかまつ たかゆき)

40代妊娠の特徴とリスクとは?

40代になると、多くの人が子育てを終えつつあったり、仕事や趣味に打ち込んでいたりと、自分らしい時間を持てるようになる時期でもあります。
しかし、その一方で「まさかこの年齢で妊娠するとは思わなかった」という声も少なくありません。

医学的にみても、40代の妊娠は決して稀ではなく、実際に厚生労働省の統計でも、近年は35歳以上での出産や妊娠が増加傾向にあります。
ただしその背景には、避妊に対する油断や、閉経が近いことで「もう妊娠はしないだろう」という誤解もあるようです。

年齢を重ねた身体には、生殖機能の変化や基礎疾患の影響が出やすく、妊娠そのものがハイリスクとされます。
高齢妊娠では流産や早産のリスクが高くなり、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症も起こりやすいとされています。

さらに、40代の妊娠では「妊娠に気づくのが遅れた」「更年期の不調と勘違いした」という例も多く、産婦人科の受診が遅れた結果、対応できる選択肢が限られてしまうケースも少なくありません。
予期せぬ妊娠に戸惑いながらも、中絶という選択をせざるを得なかった女性の声は、その年齢特有の事情や背景を深く物語っています。

中絶が身体に与える影響

人工妊娠中絶は、初期(妊娠11週6日まで)と中期(12週以降)で方法や身体への負担が大きく異なります。
日本では、母体保護法のもと、妊娠22週未満までが中絶可能な期間とされていますが、実際には14〜15週以降の手術に対応していない医療機関も少なくありません。

初期中絶では、主に吸引法または掻爬法が用いられます。
手術自体は短時間で終わり、日帰りで行えることもありますが、子宮への物理的刺激や麻酔による負担は完全に避けられるわけではありません。

中期中絶の場合は、薬剤で子宮収縮を促し、胎児を排出する「分娩に近い方法」が取られ、身体的・精神的な負担はより大きくなります。
特に出血量や痛み、感染症のリスクが高まるため、数日間の入院が必要なこともあります

中絶の影響は一時的なものであっても、子宮内膜の損傷が重なると、将来の妊娠に支障が出る可能性が指摘されています。
また、ホルモンバランスの乱れによって生理不順や気分の不安定さが生じることもあります。

40代の女性は、年齢的にも身体の回復に時間がかかる傾向があり、特に術後の体調管理が重要です。

術前・術後の体調管理と心のケア

手術に先立っては、感染予防のための抗生物質の使用や、必要に応じて血液検査などの準備が行われます。
また、基礎疾患がある場合には、内科医との連携も必要になることがあります。

術後は、出血が数日続くことが一般的で、体を冷やさず、無理のない生活を心がけることが大切です。
入浴や性交渉は医師の許可が出るまで控え、感染症の兆候(発熱、腹痛、おりものの異常など)に注意が必要です。

しかし、体調面だけでなく、心の回復も同様に大切です。
妊娠した事実を受け止めきれないまま中絶という選択をした場合、「罪悪感」「喪失感」「自分を責める気持ち」など、複雑な感情が心の中に残ることがあります。
こうした気持ちは、時間とともに薄れることもありますが、長期間抱え続けると、抑うつ状態や不眠、生活への意欲低下などを引き起こすこともあります。

必要であれば、カウンセリングを受けたり、信頼できる人に話を聞いてもらうことが大切です。
婦人科の一部では術後ケアとして心理サポートを行っているところもあり、誰にも相談できずに苦しんでいる方にとって、大きな支えになります。

自分らしい生き方を支える、医療や制度の活用法

40代で予期せぬ妊娠を経験した女性の多くが、「もっと早く相談していれば」「もっと情報があれば選択肢が広がったかもしれない」と話しています。

現在、日本にはさまざまな支援制度や相談窓口があります。
中絶手術は基本的に自費診療ですが、経済的に困難な事情がある場合には、生活保護や一時的な公的支援を受けられる可能性もあります。

また、病院によっては医療ローン制度を設けていたり、分割払いに対応しているケースもあります。
迷ったときには一人で抱え込まず、早めに医療機関に相談することが大切です。

さらに、母子保健法に基づいた「母性健康管理指導事項連絡カード」などを通じて、勤務先と連携しながら体調管理に役立てることもできます。

何より大切なのは、年齢や家庭状況、経済状態にかかわらず、「自分にとって納得できる選択」ができる環境を整えることです。
医療はそのためのサポート役であり、医師や看護師、助産師などの医療者が、一緒に考えてくれる存在であることを忘れないでください。

年代に合った適切な避妊方法で自分を守る

40代の体と心に合った避妊方法とは

40代になると、ホルモンバランスの変化や月経周期の乱れが生じやすくなり、排卵日が予測しにくくなります。
そのため「そろそろ閉経かも」と思っていた矢先に妊娠するケースが少なくありません。

望まない妊娠を防ぐためには、ライフスタイルや健康状態に応じた避妊方法を選ぶことが必要です。
たとえば、低用量ピルは避妊効果だけでなく、更年期症状の緩和にも役立つ場合がありますが、血栓症リスクなどがあるため、40代以降は慎重に使用する必要があります。

また、子宮内に装着するIUD(避妊リング)や、ホルモンを放出するIUS(子宮内システム)など、長期間効果が持続する避妊法もあります。
これらは一度装着すれば数年間避妊効果が続くため、忙しい世代にとっては特に現実的な選択肢となります。

避妊を考える際は、婦人科での診察や血液検査を通じて、安全性や適応を確認することが大切です。
自己判断ではなく、専門家の助言を受けながら、自分の体と向き合いましょう。

避妊は、単に妊娠を防ぐためだけでなく、「自分の人生を主体的に選ぶための手段」でもあります。
誰かのためでなく、自分のために選ぶ避妊方法こそが、本当の意味での自己決定です。

情報と支援を活用して、自分らしい選択を

40代での予期せぬ妊娠と中絶は、身体的・精神的な影響に加え、社会的・経済的な課題とも向き合う必要がある、非常に繊細な問題です。
誰にも相談できずに一人で悩み、苦しい決断を迫られる女性も少なくありません。

しかし、現代はかつてよりも情報が得やすく、選択肢も広がっています。
中絶手術についての正しい知識、年齢に合った避妊法、そして経済的な支援や医療ローン制度、心理的なサポートなど、使える制度や資源は決して少なくありません。
「誰にも迷惑をかけたくない」「もう遅いかもしれない」と思わずに、まずは信頼できる医療機関に相談してみることが、未来を守る第一歩です。

避妊は、単なる手段ではなく、自分自身の人生を主体的に選び取るための重要なツールです。
40代という年齢は、若さと経験の両方を持つ貴重な時期です。
この時期をどう生きるかは、誰かに委ねるものではなく、自分自身で選ぶものです。

予期せぬ妊娠や中絶という経験は、決して「失敗」ではなく、人生の一部であり、そこから何を学び、次にどう生きるかが問われます。
身体と心を大切にし、必要なときには周囲の力も借りながら、自分らしく生きるための選択を重ねていきましょう。

そして同時に、社会全体としても、女性がどの年代であっても適切な情報と支援を受けられるような環境整備が求められています。
40代の女性が安心して相談でき、正しい選択ができる社会の実現が、これからの課題でもあります。

自分を責めるのではなく、自分を大切にする視点を持って。
40代だからこそできる「主体的な選択」が、あなたのこれからの人生をしっかりと支えてくれるはずです。

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監修医師
赤松 敬之
赤松 敬之
医療法人星敬会 西梅田シティクリニック 理事長
平成25年3月 近畿大学医学部卒業。平成26年4月から済生会茨木病院にて内科、外科全般の研修を行う。平成28年4月より三木山陽病院にて消化器、糖尿病内科を中心に、内視鏡から内科全般にわたり研鑽を積みながら勤務。「何でも診る」をモットーに掲げる病院での勤務の中で、働き世代の忙しい方が通いやすいクリニックを目指し、令和2年9月西梅田シティクリニック開設。
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