中絶にかかる費用、支援制度はあるの?

赤松 敬之(あかまつ たかゆき)

中絶の費用、どれくらいかかるの?

中絶手術にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。
一般に、中絶手術の費用は妊娠週数や妊娠の進行度によって大きく異なります。
初期中絶(妊娠12週未満)の場合、その相場はおよそ10万~20万円程度です。
一方、中期中絶(妊娠12週以降~22週未満)の場合は40万~50万円ほどと、妊娠週数が進むにつれて費用も高額になります。
妊娠週数が進むほど胎児が大きくなり、手術方法も異なるため、その分費用がかさむ傾向があります。

中絶手術の費用には、手術そのものの料金だけでなく様々な項目が含まれている点にも注意が必要です。
例えば、手術時の麻酔費用、手術前の感染症検査や持病の有無を確認する術前診察・検査費、手術後の経過確認のための術後診察費、痛み止めや抗生物質などの術後の投薬料などが挙げられます。

クリニックによっては、当日に検査と手術をまとめて行う場合の即日手術加算や、土日祝日などの休日に手術を受ける際の加算、持病がある場合のリスク加算が発生することもあります。
また、中期中絶では胎児の埋葬や供養にかかる費用が別途必要になるケースもあります。
以上のように、中絶費用は決して安くない負担となります。

日本では中絶手術は自由診療となっており、基本的に健康保険は適用されないため、これらの費用は全額自己負担となります。
そのため、高額な費用を用意しなければならず、分割払いを検討する人も少なくありません。
まずは相場を把握し、無理のない支払い計画を立てることが大切です。

中絶手術で保険適用になるケース

原則として、中絶手術には公的な健康保険は適用されません。
望まない妊娠による中絶は法律上「自己都合」と見なされるため、健康保険が適用されず自費診療になるためです。
したがって通常は中絶費用の全額を本人が支払う必要があります。
しかし例外的に、中絶手術が保険適用となるケースも存在します。
それは主に次の2つの場合です。

胎児が子宮内で死亡してしまった場合(稽留流産〈けいりゅうりゅうざん〉)

妊娠中に胎児の心拍が停止し、自然に排出されない場合は、子宮内を処置する中絶手術が医学的に必要となるため保険が適用されます。
稽留流産の場合は治療としての流産手術となるため、公的保険の対象となります。

妊娠の継続が母体の生命を脅かす恐れがある場合

妊娠を続けることが母体に重大な危険を及ぼすと医師が判断したケースでも、例外的に保険が適用される可能性があります。
例えば重篤な持病の悪化や妊娠継続による命の危険など、医学的に中絶がやむを得ないと認められる場合です。
ただし、この判断は医師が専門的な判断を下す必要があり、医師が「中絶治療が必要」と判断した場合に限り保険適用となります。

上記のような特別なケースに該当するときは、健康保険証を使って治療を受けられるため、本来なら高額な中絶費用の自己負担額が大幅に軽減されます。
中絶手術は基本的に自費ですが、手術時には念のため健康保険証を持参しておくことをおすすめします。
術前検査で他の疾患が見つかった場合など、その治療には保険が適用される可能性もあるからです。

出産育児一時金の適用

出産育児一時金とは、出産にかかる経済的負担を軽減するために健康保険から支給される給付金です。
通常の出産だけでなく、妊娠約12週(妊娠85日目、4か月)以降における死産や人工妊娠中絶についても支給対象となっています。
したがって、妊娠12週以降の中期中絶を行った場合には、この一時金を受け取ることが可能です。
支給額は原則として1児につき50万円で、双子以上の場合は胎児の人数分だけ支給されます(妊娠22週未満の出産等では一時金が48.8万円となる場合があります)。
この制度を利用することで、中期中絶にかかった費用の一部を実質的に補填することができます。
出産育児一時金を受け取るには、まず中絶手術を受けた医療機関に対して費用を全額支払った後、自身が加入する健康保険組合等に所定の支給申請書を提出する必要があります。
申請には手術費用の領収書や明細書などの書類添付が求められ、審査を経て指定口座へ一時金が振り込まれます。
しかし、多くの医療機関では直接支払制度という仕組みを導入しており、これを利用すれば保険者(協会けんぽなど)から医療機関に一時金が直接支払われます。
直接支払制度を利用すれば、高額な費用を患者が一時立て替える必要がなくなり、手続きも簡略化されます。
中絶手術を受ける際には、事前に医療機関にこの制度が利用できるか確認しておくと良いでしょう。

「母体保護法」に基づく中絶の費用は医療費控除の対象

中絶 費用 支援制度

中絶手術にかかった費用は、条件を満たせば医療費控除として所得税の還付対象にすることもできます。
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定額(※原則10万円)を超えた場合に、確定申告を行うことで所得税の一部が戻ってくる制度です。
中絶手術の費用も医療費控除の対象となり得ますが、すべての中絶が認められるわけではない点に注意が必要です。
日本の税法上、医師が「母体保護法」に基づいて行った人工妊娠中絶であれば、その費用は医療費控除の対象になります。
つまり、母体保護法指定医が母体の生命・健康を守るために必要と判断して実施した中絶手術であれば、支払った費用の一部を税金の還付という形で取り戻せる可能性があります。
しかし、自己都合による中絶の場合には、医療費控除の対象とならない可能性があることも覚えておきましょう。
実際には、経済的な事情や健康上の理由で出産が困難という場合などは正当な理由とされ、母体保護法の適用範囲に含まれるケースもあります。
医療費控除を受けるためには、手術費用の領収書を確定申告時に提出する必要があります。
領収書がなければ原則として申告が認められませんので、手術を受けた際には必ず受け取った領収書を保管しておきましょう。
医療費控除の手続きとしては、年間の医療費を計算し、確定申告書に必要事項を記入の上、医療費の明細書とともに税務署へ申告します。
適用されれば、中絶費用の一部が還付されることで経済的負担を軽減できます。

まとめ

中絶手術の費用は原則として保険適用外であり、全額自己負担が基本です。
ただし、胎児が子宮内で死亡してしまった場合や妊娠継続が母体の健康を害する場合など、医師が必要と認める特別なケースでは健康保険が適用されることがあります。

非常に安い費用を掲げるクリニックには注意が必要です。
正規の医療機関ではない違法なクリニックが格安料金で中絶手術を行っている場合がありますが、こうした場所での手術は避けてください。

中絶手術は法律により母体保護法に基づく資格をもつ医師のみが手術を行えると認められており、無資格者による手術は非常に危険なうえ、違法行為となります。
安全のためにも適切な医療機関で手術を受けるようにしましょう。

参考文献

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監修医師
赤松 敬之
赤松 敬之
医療法人星敬会 西梅田シティクリニック 理事長
平成25年3月 近畿大学医学部卒業。平成26年4月から済生会茨木病院にて内科、外科全般の研修を行う。平成28年4月より三木山陽病院にて消化器、糖尿病内科を中心に、内視鏡から内科全般にわたり研鑽を積みながら勤務。「何でも診る」をモットーに掲げる病院での勤務の中で、働き世代の忙しい方が通いやすいクリニックを目指し、令和2年9月西梅田シティクリニック開設。
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